INTRODUCTION イントロダクション

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松村厚久、51歳。人呼んで、「外食産業の風雲児」。
彼は、30代後半から難病指定の「若年性パーキンソン病」を患っている。

ダイヤモンドダイニング創業者。DDホールディングス代表取締役社長。
グループ全体で国内外合わせて約500店舗を展開し、従業員数は約1万人、年商約500億円。2015年、東証一部上場。
斬新なアイデアと型破りなビジネスプランを次々とぶっこみ、エンターテインメント性あふれる個性的な新店舗を成功させてきた天才的な異端児。レストラン業界のタブーに挑み、勝利した男。
そんな彼は難病を発症してから約10年間、社員にも誰にも自らの病状を秘密にして仕事を続けてきた。しかし2015年、東証一部上場とほぼ同時に、実売約10万部を記録する大ベストセラーとなったノンフィクション書籍『熱狂宣言』(小松成美・著/幻冬舎刊)ではじめて世間に公表。

パーキンソン病とはいったいどんな難病か?
いまだ原因不明の部分が多い運動障害の疾患で、だんだん手の震えや動作、歩行などに困難が生じ、症状はゆっくり進行する。高齢者が多いが、40歳以下で発症した場合を「若年性パーキンソン病」と呼ぶ。ハリウッドスターのマイケル・J・フォックスや、世界ヘビー級チャンピオンに輝いたボクサーのモハメド・アリなど、松村厚久と同じように闘病中であることを公表した著名人も多い。
立てない、歩けない、うまく話せない。
それでも彼は仕事を続ける! 周りにはいつも彼を慕うたくさんの仲間・社員たちの笑顔があふれている。

過酷な試練、皮肉な運命と闘いつつリーダーとして大企業を率い、現役バリバリでありながら、生ける「伝説」となりつつあるカリスマ経営者――。
その破格の生きざまに魅せられ、彼の素顔に迫ったのが、もうひとりの「伝説」の男、奥山和由監督だ。
20代後半から映画プロデューサーとして活躍し、『ハチ公物語』など数多くのメガヒット作を生み出すほか、北野武、竹中直人、坂東玉三郎を新人監督としてデビューさせ、製作を務めた今村昌平監督の『うなぎ』ではカンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)を獲得した映画界の風雲児。スクリーン・インターナショナル紙の映画100周年記念号においては、日本人で唯一「世界の映画人実力者100人」のなかに選出された。今回はレーシング・ドライバーの太田哲也の姿を追ったドキュメンタリー映画『クラッシュ』(2003年)より、15年ぶりの監督作品となる。

奥山和由がとらえた松村厚久は、どんな人物か?
それは豪快なパブリックイメージだけにとどまらない、複雑な多面性を持つ人物像だ。「私はめちゃめちゃ運がいいですよ。誰よりも運がいい」と語る、不思議な自信に満ちあふれた前向きでパワフルな笑顔。「サンシャイン松村」と名乗って芸人的なパフォーマンスをイベントで披露する目立ちたがり屋。全力で人と人をつなぐサービス精神。そういった明るさの一方、株主総会でヤジられたり、身体が思い通りに動かない悔しさで涙を見せることも。そして観光特使を務める故郷・高知県で開催される「よさこい祭り」への熱い想い。実家に住む母親との深い愛情関係。

とりわけ経営哲学について質問され、自らを鼓舞するように「こんなもんじゃないぞ! こんなもんじゃないぞ!」とキーボードで筆談する姿は激しく胸を打つ。

これは名物社長のサクセスストーリーでもないし、ありふれた感動巨編でもない。
苛烈な人生を全身全霊で生きるひとりの男にダイレクトに迫り、そのプリズム状の生命の光を浴びるように体験する映画だ。
なぜ、彼はこんなにも多くの人を惹きつけるのか――。
Team Okuyamaが制作・宣伝・興行すべての手法において、今までにあり得ない映画を創ることをコンセプトとした「フリーシネマプロジェクト」の第1弾作品。人間観察眼に秀でた奥山和由による、まったく新しいヒューマン・ドキュメンタリー映画の誕生である。